金融社畜日記~証券リテール残酷物語~

時代錯誤な昭和の趣を残す職場、大手証券会社(リテール!)で働く人(働いていた人)の現在進行形日記です。良いところ悪いところ投資に役立つちょっとした豆知識を載せていきます。

証券リテールとは何ですか!~基本編(前場編①)~

 

 

 

証券リテール営業マンの一日(5年目営業マン編)

どこの証券会社の支店でもそうですが、これが日常です。

 

※証券会社専門用語が出てきますので、解説は【】内に書きます。

4:30 起床…昨日に課の予算を落としたため課長の恫喝による悪夢と1:00近くまで飲んでいたためうまく寝つけず気分が悪い

【1:00近くまで飲んでいた:証券会社の社員は本社・支店に限らず、ストレスがたまる仕事が殆どである。日々の激務なため、飲み会が開かれると1次会~3次会まで連れまわされるという“良い文化”が存在する。大体は1次会が居酒屋、2次会がガールズバーやキャバクラ、3次会がカラオケ・ボーリング・ダーツなどの遊戯で締められる。筆者は遅いときは深夜3時を記録、次の日はシャワーを浴びるための帰宅で会社に直行。もちろん周りは二日酔いで酒臭い。どうでもよいが、新人や若手はなぜか参加者全員に昨日は有難うございましたと礼を言うという体育会の悪しき習慣が存在している。そもそも割り勘ジャンとは言ってはいけない。

【予算を落とす:ノルマが達成できなかったこと。証券会社ではノルマの種類に収益・純増がある。収益とは一般企業の売り上げにあたり、株・投信の手数料や債券の引受手数料などで稼ぐ。フロー収益と呼ばれ証券会社の稼ぎ頭。また純増とは、証券会社は銀行と違い決済機能がないため、顧客が給料の振込などで使用しないため、受動的にお金が集まりにくい性質がある。そのため証券会社は能動的に顧客より資金を導入させる必要がある。この行為のことを純増と言い、純増の項目は株式純増(株を買い付けたり余所から移管してもらったり)、株投純増(株式型投資信託ファンドラップを買ってもらうこと…顧客に預けてもらえるだけで投信会社より毎年手数料が貰えるためストック収益と呼ばれる。)因みにキャッシュ(現金導入)での商品販売が一番得点が高い。乗り換え(株を売って投信を買う、投信から投信)での1億よりもキャッシュでの5,000万の投信を決めに行く方が、偉い!というのは昔の証券会社のセールスには考えられない現象である。つまるところ各社とも収益の比重が下がっている点も近年の特徴である。

【課長の恫喝:証券会社では怒らない人はいないですし、怒られたくない人は辞めてしまいます!ただ、近年はパワハラ・セクハラはSNSの発達や女性社員の増加で減りつつある。】

 

5:45 モーサテを見ながら日経新聞を見る。今日もNYダウとS&P500は下がり、中国の景気予想も悪い…あてにしていた連動債の判定日だか早期償還が無くなり、次の収益が見込めない状態になることが安易に予想できる。

【モーサテ:モーニングサテライトの略。テレビ東京系列・BSジャパンで明朝に放送される経済番組。当日の日経平均やドル円のレンジ(値動きの幅)を偉い人たちの予想が見れるが、どれも幅広(笑)。お客に電話するときのちょっと経済に精通してます、知ってます的なネタを準備するために最適な番組である。】

【NYダウ・S&P500:前者は日本の日経平均的なもの、後者はTOPIXに近い、いわゆる株価指数・指標のこと。アメリカ合衆国で上場されている株式が指数の算定に使われるため、アメリカの景気の先行きや楽観・不安を映し出す経済の鏡である。NYダウはダウジョーンズ社が算出する指標であり、かつては日経平均も日経ダウと呼ばれていた。S&Pは格付け会社のスタンダードアンドプアーズ社が算出】

【連動債:極悪非道の証券会社がぼろもうけできるハイリスク・ローリターンの債券のこと。ある指数(日経平均)を参照し、それがある一定の水準であれば高い利金が受け取れ、それを下回ると元本割れを起こして償還を迎える債券のこと。早期償還とはある一定の水準をずっと維持していた時、その判定日にその水準であった場合は元本がそのまま戻って来ることを言い、これをノックアウトという。元本が割れる水準に達した時をノックインと言い、大幅に元本が棄損する。連動債の中身はデリバティブであり、基本的に投資家はプットオプションの売り手(ショートプット)となり著しく不利な状態である。】

 

6:30 チャリで出社…支店は雑居ビルの一階に通用口がある空中店舗なため置き場が無く、近くのドラッグストアの置き場に駐輪

【空中店舗:通常金融機関は目抜き通りの1階にフロアを貸し切って営業をしていると思い込みがちである。それは顧客が受動的にやってくる銀行の話で、証券会社にやってくる顧客は一日数人といったところ。そのため空中店舗であっても何ら支障はなく、営業マンがそのまま顧客にがめつく営業をするスタイルなのである。】

 

6:40 出社…既に2課の全員がそろい、先日の営業日誌と顧客カードをみながら今日の訪問先を準備している…管理職は支店から少し離れたところのマンション住まいなため電車通勤…つかの間の安息

【顧客カード:顧客の属性、取引経過性や保有資産が載ったカード。通常はどこの証券会社でもオンライン化されている。これを見て、営業マン達はあの客で利益の出てる投信を売って募集債をはめ込んで、個人向け国債を売らせて、ファンドラップに乗り換えさせて…などパズルを組むための道具なのである。決してお客の資産の心配やコンサルティングを考えているのではなく、ただそれだけの価値しか持たないものなのである。】


7:00 管理職が遅れて登場。支店長も5分後に登場。新人が管理職会議用の集計表を準備させられる。因みにサビ残である。

【集計表:昨日までの営業成績が載った紙。本社の支店統括本部計数管理課から毎日エクセルデータとしてやって来る。順位であったり、年次別であったり、戦力別(地域職の女性営業員は別項目)が表示されている。恫喝のための燃料になる。】

サビ残労働基準法違反、いわゆるサービス残業・無賃労働である。一応営業マンは自主的に出てきて、その間読み物をしていたり遊んでいたことになっているらしいのだが…勤務状況は8:40始業となっている】

 

7:20 管理職会議「今日はどこでいくら収益予定してんだ!!募集債はいくらやるんだ!ファンドラップ純増はいくらやるんだ!キャッシュでやれよ!ぜってえにやれ!!」など支店長が管理職を詰めまくり恐怖政治…その間営業マンはどこの客でいくらやるのか、など早朝より予定を作るために客にテレアポ攻撃…昨日予算を落としていた課のセールスにとっては客が出勤前であろうが寝ていようが、家事をしていようがお構いなしである

【管理職会議:支店長の独演会。ジャイニズムあふれる恫喝という名の演奏会が開かれ、これに長年耐えうるものが、次のリサイタルのステージを用意されているのである。因みにさして意味はない会議であり、業務管理部長の法令順守をしましょうという形骸化した中身のみが真面目に右から左へと営業管理職たちの耳を通過するのみであり、それ以外の演奏会は集計表を見つめればそれで結論は出ている。要は、法令順守ギリギリの商いをしつつも、収益をやれということ。】

ファンドラップ:大手証券がよくCMでやってるナウい商品。チェケラッチョではなく、投資信託の一種。ファンドファンドを買わせるという非効率かつ手数料を取ることしか考えていない商品。お年寄りに人気。これも証券会社が収益ベースから純増ベースへ業態を移していることの根拠】


8:00 管理職が会議から出てくる…課の朝会がスタート…筆頭セールスから順番に予算を申告させられ申告が低いと恫喝されるため、ほとんどが旗…予算のついていない新人はNISAと新規口座獲得件数を報告させられる…20分のうち殆どが人格否定のため費やされる

【筆頭セールス:支店の奴隷のトップ。営業管理職はある一定の人格を与えられた平民。支店長は司祭である。因みにエリア本部長(平取締役、もしくは執行役員)は神である。貴族は意外にも業務管理部の平課員。女性しかいなくめっちゃ楽そう。3時のおやつとかどんだけやねん!他の奴隷たちの稼ぎの中心を担う存在であり、次の平民へのトランスフォームの準備中。接待続きで肝臓が悪く、女性の筆頭セールスは先ずお目に掛れない。みなそのエクストリームを経験する前に美人ぞろいの証券会社よろしく結婚をし主婦という名のテラフォーミングを成すからである。女性の営業課長はそのため超変人が多い。尚、独身多し。(司祭などは歴史の教科書の中世の時代のヨーロッパの日ヒエラルキーを思い出いしてほしい)】

【朝会:営業課長の独演会。ジャイニズムあふれる恫喝という名の演奏会が開かれ、これに長年耐えうるものが、次のリサイタルのステージを用意されているのである。因みにさして意味はない会議であり、恫喝とそれらしい経済見通しの呪文が右から左へと営業マンである奴隷たちの耳を通過するのみであり、笑顔で耐え抜くメンタルが必要とされる。】

【旗:嘘の数字、出来ないのに申告する、その場を取り繕うための債務。債務なので時間がたつほど返済不能(達成不可能)となり結果デフォルト。因みに証券会社の辞書に載っていない言葉に、“出来ませんでした”が有名である。】

【NISA:ニーサと脱力した読み方だが、いわゆる非課税口座のこと。一時期ある証券会社のCMで○○さんちも非課税とかいうのが放映されていたが、非課税メリットはたったの100万円までの元本の値上がり益と配当のみ。ボロ株や低位株にドリームを託すギャンブル向け要素とシニアパワーたる大型株の長期保有による株価下支えの燃料になっていることは必至である。因みに投信も保有可能】

 

8:20 朝会が終わり、支店長が営業マンを集める。早速営業場のホワイトボードに下手なチャートを書き、支離滅裂な呪文を唱え叫び始める。
 「おまえらボーっとしてんじゃねえ!!NYダウが下がっている?中国が景気減速?そんなことより今月の劣後債どうなってんだよ電話しろ!!純増の予定たてろ!!○○今日上がるぞ!!下がったら買わせるのが証券会社のセールスだろ?機関が買いに来るぞ!年金が買いに来るぞ!」などまくし立てられる。

【支離滅裂なチャート:ここはリテール営業店、アナリストもいませんし、金融工学を学んだインテリもいません。彼らに共通することは、買ってください…電話を切りません、訪問先から帰れません客が買うまでは…という教育を受けているのだ。だからチャートというのは占いなのである。支店長は司祭なのだから、呪文で構わないのである。】

劣後債:債券の王様といえば、国債である。その次がいわゆるシニア債と呼ばれる普通社債、次がジュニア債とよばれる劣後債である。シニア・ジュニアの違いは要は会社が潰れちゃったら誰から弁済されるのかという順位である。これらは簿記上は負債になるが、負債の一番おいしいところは現ナマの長期貸し付けのメインバンクがかっさらってしまうため、社債は基本的には会社が潰れたら紙切れとなってしまう。劣後債はリスクを抱える分、高い利回りが想定できるが、そもそも一般個人向けに発行される債券というのは機関投資家が引受しない商品が多いわけであり(もちろんそれだけではないが)、一度保有すると簡単には売却できないため、実はかなりリスクの高い商品ではないかと筆者は思うのである。

機関投資家:我々の世界では機関・もしくは単に“おとな”とよばれる。機関車の如く大人買いを行うと想像していただければ分かりやすが、とても株式市場にインパクトを持つ存在である。機関投資家として有名なのは農林中央金庫・生命保険会社・いわゆる公的年金基金(GPIF・KKR)などである。因みにいまの株式市場最大の大人は日本銀行であり、営業マンたちはしきりに今日は日銀が買っているので買ですよと適当なことを言っている。日銀が大人買いすることを日銀砲と呼ぶ。】


8:40 業務管理部(事務社員)平課員が出社…俺もあんな楽な仕事をしたいなとQuickの高速点滅する板を見ながら感慨にふける…ところで管理職のブルームバーグ回線に何の意味があるのだろうかとまた感慨にふける…実際のところブルームバーグ回線は低学歴で下品な上司には使いこなせていない場合が殆どだからだ…ヤフーファイナンスで事足りる

【Quick:営業員向けの株価や指数の検索端末。黒と白や蛍光色の色で表示された画面には多くの営業に必要な情報が詰まっている。そもそもこれをお客に検索させて、勝手に株を買わせた方がいいんじゃないのかなと思うくらい、営業マンの存在が小さくなる端末である。因みに朝はモーサテ、日経新聞、Quick触って日経平均株価を参照、夜はWBSワールドビジネスサテライト:モーサテの夜版)と我々は日経新聞グループに支配されているようである。】

ブルームバーグ:金融機関に勤める人々の憩いの場、チャット機能が充実。端末料金が非常に高く、これ1台でQuickが何十台も用意できるほど高価だそうだ。因みに中身はQuickの豪華版。本部の債券セールスが使ってるイメージ。】

【ヤフーファイナンス:修羅場、掲示板機能がとにかく修羅場。リアルタイム更新ではないがQuickよりもレイアウトが見やすいので営業マンにとっては意外な人気】

 

8:50 営業場のセールスは殆ど出かけている…株式委託手数料の自由化により大手の対面証券では株よりも分かりやすい投資信託と仕組債がいまや収益の柱だ
9:00 前場スタート。営業場は電話があまり鳴らなく、投信の受注や債券の募集の電話をしている…「日経520円安!!!!」と管理職が叫ぶのを横目に電話かけて投信の注文を取る(笑)…

投資信託:小口で複数人から金を集めファンドとして様々な金融商品にプロ?が投資を行うかわり、運用益は分配金として投資家に分配されるという商品。いわゆるファンド。営業マンにとっては手数料が高く取れるために人気。ただそれだけの商品で人気化する。要は営業マンが必死に売るから、投資信託は人気なのである。パラドックスである。投資信託は基本的に翌日単価採用のものが多く、時々刻々の相場環境には左右されないため、注文を取った次の日に安く買えたのか高く買えたのか(口数が多かったのか、少なくなったのか)が分かる。

 

10:30 支店長&課長が「○○いいぞ!!!」と叫んでる中、同時に手数料報告。

ホワイトボードにはそれぞれ一日ごとの予算が書かれ、課長は書いては消しを繰り返すため、その床はススだらけである。突然ホワイトボード消しが宙を舞う…

「てめ~今日はやるんじゃねえのかよ。なんでゼロポンはめれねえんだよ。田中先生はお前じゃ役不足みたいだな~あ~聞いてんのかコラあ~」と前場が始まる前に出た営業マンが客先で決めれず帰社したために、追尾ミサイルよろしくポマードで固めた営業マンの頭を横切った…

ゼロクーポン債:クーポン(利金)が無いかわりに額面金額よりも大幅に低い単価で買うことができる債券のこと。残存期間は20年超が多い。償還日に額面どおりの金額が償還されることが確定しており、利金による収益を償還時にまとめて取得できる。要は証券会社としては仕入れた時に上前をはねてお客に販売するため、適正な価格が分からなくなってしまうので、その上前分をかなり高く設定できるため、証券会社の収益に貢献するのである。】
【ポマード:整髪剤の一種。黒光りテカテカ。ダサい。なぜか不動産業と証券業には愛される不思議な存在。最初は横分けとかちょっとおしゃれっぽくしたくなるが(全然オシャレじゃないが)、大体がオールバックに落ち着くのも不思議である。

【はめる:いろんな意味がある言葉。多くの意味を捉えてほしい。要は要らないものを入れるゴミ箱を用意するような感覚である。きっちり手数料を取って。


 11:20 「どうすんだ!!てめえは!!前場終わっちゃうぞ」と言われ必死に投信と債権の注文を取る。
11:30 前場終了。日経平均750円安

 

とりあえず今日はここまでです。(全て想像です。断っておきますがフィクションです。)お昼からの部はそのうち書きます。